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量子コンピュータによる3次元点群データ解析

かつては未来の技術のように語られていた量子コンピュータですが、近年では実際に制作されて稼働しているものもあります。まだまだ性能的な制限も厳しいのが現状ですが、一部では企業による量子コンピュータの商用運用もすでに行われています。


【量子アニーリング】

量子コンピュータには大別して「アニーリング方式」と「ゲート方式」があります。ゲート方式の方がより汎用的な使用が期待されている一方、アニーリング方式は組み合わせ最適化問題に特化した専用計算機であると位置づけられます。カナダのD-Wave Systems社がアニーリング方式の量子コンピュータでいち早く商用運用に乗り出し、今のところの一般的な開発状況としてはアニーリング方式の方が一日の長があると言えるかもしれません。


 アニーリングとは「焼きなまし」のことであり、本来の意味では金属精錬の過程などにおいて、加熱された金属が冷やされることで性質の異なるものに変化することを指します。量子アニーリングでは高いエネルギー状態に加熱した電子を徐々に冷却し、量子状態をよりエネルギーの低い状態に収束させることで、与えられたポテンシャル場の最小値を探索する計算方法です。このポテンシャル場の形状を解きたい数学的問題に合わせて設定すれば、量子コンピュータで最小値の探索が出来るという仕組みです。最小値の探索は、例えば地図上で最も深い谷を探すようなもので、通常のコンピュータであればポテンシャル場の全域をしらみつぶしに調べないと最小値を見つけることはできません。一方、量子アニーリングでは量子力学的な効果によって高度に並列化された効率的な探索が可能になります。


【組み合わせ最適化問題】

量子演算は量子力学に基づくため、量子アニーリングで解くことのできる問題は量子力学的な性質に合致した場合に限られています。具体的には、イジングモデル (Ising model)を変形した、QUBO (Quadratic Unconstrained Binary Optimization)と呼ばれる形式で与えられる問題です。基本的にはQUBOは以下の式で記述されます。

下表は上の式中の変数や係数の説明です。

 

 こうした組み合わせ最適化問題の応用例として、選択的な経路の最短距離を求める巡回セールスマン問題や、価値と重さの異なる品物から積載量の制限内で積荷の価値を最大化するナップサック問題などがあります。しかし、実際にはQUBOとして記述できる現実の問題は稀であり、さらに現在の量子コンピュータでは同時に扱える量子ビットの数も決して多くはありません。よって、量子アニーリングの現実的な適用は、如何にして解きたい問題を実行可能なQUBO形式に落とし込むかが鍵であると言えます。


【3次元点群データ解析における量子コンピュータの応用】

弊社Tengun-labelでは、コンピュータビジョンの分野、主に3次元点群データ解析において、量子コンピュータを活用する独自の研究開発を行っています。現状ではまだまだ性能面での制約も厳しい量子コンピュータですが、今後は大きく発展していく可能性を大いに秘めています。


 以下に示す図は、我々が量子アニーリングを用いて行った3次元点群データのレジストレーション(位置合わせ)の簡単な例です。左図では同じの椅子のモデルから生成されたデータ(赤と青)を3次元的にズレた任意の位置・角度に配置し、それを初期状態としています。左図の青の点群データ座標に適切なアフィン変換行列を作用させることで赤の点群データへの位置合わせを行いますが、この変換行列を決定する条件が「それぞれの対応点同士の距離の総和を最小にする」という条件で定義されます。この条件をQUBOの問題として記述し、量子アニーリングを用いて最適解を計算しています。

点群データで表現された椅子のレジストレーション。初期状態(左図)として同種のデータをズレた位置に配置し、対応点同士の距離を最小化するという条件に基づき、量子アニーリングによって位置合わせを行った結果(右図)。


【おわりに】

今回は量子コンピュータの現状、特に量子アニーリングを用いた計算について解説しました。最後に弊社Tengun-labelが研究を進めている、3次元点群データ解析への量子コンピュータの応用例を紹介しました。コンピュータビジョン分野における量子コンピュータの適用はまだまだ未開拓の領域であると言えます。3次元点群データの解析においては、パラメータサーチなど再帰的な計算によって計算効率が非常に悪い場合が多く、今後の量子コンピュータの技術と共に飛躍的な進展が期待されます。


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